前編からお読み下さい。失くし物 第九話 後編

男は増えていた体重がみるみる減っていき、ほおがこけ

目が落ち窪んでまわりがクマだらけになった。テレビや

ラジオ、音楽などもまともに視聴できなくなっていた

かろうじて簡素な食事を日に一食採るだけとなった

睡眠時間も減り、夜な夜なうわ言を繰り返すようになった

男は彼女が永久に現れない恐怖と不安と絶望のうちに

明け暮らす人となっていった。そう、男の精神は崩壊して

いった。男は記憶傷害に加え別の病も発状しつつあった。

ある日までは…

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失くし物 第九話 2 前編

彼女は現れなかった。もうずいぶんと待った。待ち疲れてしまった

いくらなんでももう能天気な妄想などしていられなくなってきた

だが、男の中で現実にたち還るにはもうあまりに想像が生長しすぎ

ていた。男の中で彼女は現れなければならぬ絶対的な存在だった

現れて男の記憶を取り戻してくれるのだ。男は日に日に絶望感を

募らせていった。ここでみなさんに問いたい。この男がいったい

いつまで正気でいられるだろうか。あなたならどうしますか?後編へ

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小説・失くし物 第九話 1

寛子はパートに出勤していた。スーパーのレジ係だった。
いつもはなしかけてくれる同僚のおばさんが、いつもどおり
声をかけてきた。「聞いたわよ!おめでたなんだって?」
おばちゃんはにこにこしながら聞いてきた。「あたしの若い
頃を思い出すよ…初産のときはたいへんだったわあ。
それでもね、子を授かるっていうのはね、おんなにとっては
ある意味天命だからね、神様の決めたことには逆らえないわねえ。
まあ、うちの子もちぃちゃい時分はかわいかったさ、そりゃあもう
かわいかった」おばちゃんの話は尽きることなくつづく。
「いまじゃ立派なわんぱく坊主でね、来年受験だとさ。近頃の
子供は大変だねえ…」要は、子供を設けることが女にとって
いかに重要で大切か、ということが言いたいらしい。
寛子はいつも通り半分くらい聞き流しながら、おばちゃんに
心で感謝しながら、今頃会社で働いているはずの夫に
思いを馳せるのだった。。。

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失くし物 第八話 2 後編

最新のお気に入りは「太陽の下」という恋愛を題材にした

よくあるヒット曲だ。歌詞もメロディも非常に気に入ったが、

題名自体自分の現状を考えると矛盾していた。こんな生活の

せいか体重は増える一方だった。カガミでおのれの肢体を

みるのは極力避けていた。男は夢想した。まだみぬ伴侶を…

髪型や顔のりんかく、体型目、鼻立ちの細かい部分、

性格やしぐさ、癖などを。自分に向けられるはずの愛情を。

男の妄想はひろがるばかりであった。

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失くし物 第八話 1

 亮次は自分のデスクの前に座っていた。部長の席とはかなり離れた、
いわゆる亮次は一昔前流行っていた、窓際族といってよい扱いだった。
経理課である。亮次は簡単な演算処理作業をしていた。若い同僚達の
会話がひそひそ聞こえてくる。(あの秘書課の子かわいくね〜?)
(週末飲み行こ!)くだらない、と亮次には思えるのだが正直のところ
彼らの方が将来有望なのは事実なのであった。(やつらにはわからないだろう)(家庭をまもり、子を育み、伴侶を愛する大切さを…)
亮次はそれが真実の幸福と信じて疑わない。それで亮次は自分のいまの
境遇の悪さを納得させていた。亮次はそれでよかった。
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